過去の事かもしれない、これから起こる事かもしれない。
月と太陽が順番にまわりつづける。そんな世界の話。

そこにハクシャクという名前のドラキュラがいました。
ハクシャクは血を吸えないドラキュラでした。

ハクシャク:「だって鉄っぽい味がするし、ドロドロして気持ち悪いんだもん」

そのうえ趣味はひなたぼっこで、十字架のアクセサリーが大好きでした。

ハクシャク:「だって気持ち良いし、十字架もカッコイイから」


ハクシャクはぜんぜんドラキュラっぽくなかったので
みんなにいじめられていました。

ア ク マ :「血を吸えないドラキュラなんてドラキュラじゃないよ」

マジョ :「かっこわるーい」

オオカミ男:「毛ぶかいんだよ!」

ハクシャク 「!?」

ア ク マ :「(お前が言うか!?)」

マジョ :「(お前が言うか!?)」

ハクシャクはかなしい気持ちになりました。


ハクシャクがトボトボ歩いていると、真っ白な可愛い天使に会いました。
テンシは自殺しようとしていたので、ハクシャクはあわてて止めました。

ハクシャク:「キミはいくつなの?」

テ ン シ :「416さい」

ハクシャク:「まだ若いじゃないか」


ハクシャクはラーメンを食べながらテンシの話を聞いてみることにしました。

ハクシャク:「神様が言ってた、自殺は一番しちゃダメなコトなんだ」

テ ン シ :「だって輪っかのついてない天使なんて天使じゃないもの」

テンシには輪っかがありませんでした。
変わりに輪っかのピアスを耳にたくさんつけていました。
ハクシャクはテンシの気持ちが少し分かったような気がしました。


ハクシャクは一晩中テンシを説得しました。

ハクシャク:「ボクなんか一つもドラキュラらしいところがないけど、キミには天使らしい白い羽根があるじゃないか」

テ ン シ :「惚れた」

ハクシャク:「え?」

テンシはハクシャクに恋をしました。

テンシ 「決めた!!アタシが必ずアナタをりっぱなドラキュラにしてあげる。だからその時はアタシの血を吸って、アタシをドラキュラにしてちょうだい」

テンシは目をキラキラさせて言いました。

ハクシャク:「ダメだよ、天使はドラキュラにはなれない。血を吸われたら死んじゃうかもしれないよ、だから絶対にキミの血は吸わない」

テ ン シ :「それでもいい、天使じゃなくなれれば何でもいい」


その日からテンシはハクシャクの屋敷に住みつきました。
なぜかテンシは体にいっぱい十字架のイレズミをしてきました。

テ ン シ :「なれるトコロからはじめようね」

その日から、食べていいのはトマトジュースになりました。
最初はイヤだったけど、ハクシャクは少しずつなれていきました。
ハクシャク:「これはこれで健康的だよね♪」


テンシはスパルタでした。
ニンニクをキライになる訓練。

「ビシッビシッ!」

ハクシャク:「いたいっ!!いたいってば」

テ ン シ :「まだまだよ〜」


太陽がキライになる訓練。

「ジリジリジリ…!」

ハクシャク:「あついっ!!虫メガネはやめて!!虫メガネは」


十字架がキライになる訓練。

「ドカバキボケキャ!」

ハクシャク:「ひどいよ、ひどいよ」

ハクシャクはボロボロです。

10

ハクシャクがニンニクと太陽と十字架をキライになったころ、
ある日とつぜんテンシがトマトジュースを隠してしまいました。
ハクシャクはおなかが空いたので他の物を食べようとしたけど、
何もノドを通りません。

ハクシャク:「困ったな…」

ハクシャクはテンシが自分にいじわるをしてると思いました。
でもテンシが僕にそんな事すはずがないと心の中で我慢していました。

11

ドラキュラは人間より少し空腹を我慢できますが
ハクシャクはもう限界で頭がクラクラしてきました。

ハクシャク:「食べ物を探してくるよ」

テ ン シ :「ダメよ」

ハクシャク:「どうしてこんなイジワルをするの?」

ハクシャクは聞きました。
するとテンシはこう答えました。

テ ン シ :「それはアナタがドラキュラっぽくないからよ!!前からずっとイヤだったのよ、アナタのウジウジした態度が」

ハクシャクは怒ってテンシに噛み付きました。
血の味がしました。
でも不思議なことに、大キライだった血の味がとってもオイシク感じました。

テ ン シ :「よくガンバったね。アナタはもう血を吸えるんだよ。
だってあのトマトジュースに少しずつアタシの血を入れていたから」

そう言うとテンシはグッタリと動かなくなりました。

12

ハクシャクは今日も血を吸いに夜の町に降ります。
今ではみんなが恐れるドラキュラハクシャクです。
もうバカにする人なんて1人もいません。

13

ハクシャク:「ただいま」

ハクシャクは屋敷に帰ると棺おけの中のテンシに話しかけます。
テンシの羽根は真っ黒になっていて、
もう目をさますことはなかったけど、
ずっとずっと幸せそうな顔をしていましたとさ。

過去の事かもしれない、これから起こる事かもしれない。
月と太陽が順番にまわりつづける。そんな世界のちょっと変わった話。